ジャズ喫茶の通

20世紀初頭に生まれたジャズが世界中の大衆音楽に影響を与えて、ちょうど半世紀経った頃からロカビリーなどポップな傾向へ変わっていった。

日本では昭和30年代までロカビリーでも何でも生演奏の店が「ジャズ喫茶」だったのもジャズが主たる大衆音楽だった所以だが、昭和40年代以降「ジャズ喫茶」はモダンジャズに特化した店となった。

 

あの頃は全国津々浦々にあって、ジャズをBGM的に流す”緩い”ところもあるが、筋金入りゴリゴリの「ジャズ喫茶」と言えば、凝ったオーディオにレコードもかなりの数で1950年代以降のビバップモダンジャズが中心。

リクエストも出来たが、それ以前のスイングジャズやディキシーなどなくて、かつて花形楽器だったクラリネットのレコードもなかった。

大音量のレコードを黙々と聴いて会話もなく、何かの儀式的な雰囲気さえ漂い、知らないで入ろうとしたカップルが逃げるように去ることも。

そこに非日常の癒しを感じた人もいたわけで、私もジャズ初心者の頃よく行った。

 

20歳頃に住んでいた都内のアパート近くにジャズ喫茶が開店、会話OKで夜はお酒も飲める”緩い”店でたまに行った。

ジャズ専門誌で評価が高いジョン・コルトレーンの「至上の愛」を知りたくてリクエストすると、オーナー愛想よく「今流れている次にかけますね」と。

水割りとコルトレーンでいっぱしの通な大人気分だった。

流れていたレコードが終わると、客席から見えるように置かれたレコードジャケットが交換され、始まる、お、こういうのか、複雑になっていくな・・・長いなぁ。

目をつぶって時折首を振ったりしてはいるが「うーむ、わけ分からん、こんなんだとは、今立つと分かってないことがばれる、終わるまで辛抱しよう」だった。