映画と音楽82-浦島慕情

「慕情」(1955)は主演ウイリアムホールデンジェニファー・ジョーンズ
香港で出会い愛し合った二人、朝鮮戦争が勃発して男は従軍記者として戦地で亡くなる悲恋物語。テーマ曲は大ヒットして、ナット・キング・コール、アンディーウイリアムス、マット・モンロー他多く歌われた。
若手時分「これを知らないと商売にならない曲」のひとつだった。

 

1980年代のホテルラウンジでは毎夜音楽ショーが定番で、私も毎月各所のレギュラーを頂いた。
ある日の出演でホテルスタッフ「先日の出演者が『慕情』のリクエストを何のコメントもなく取り上げず苦情を受けました。万一出来ない曲は必ず丁寧に告げて下さい」。

出演はジャズのみならず、シャンソン、タンゴ、ポップス他様々で「慕情」がレパートリーになくても無理はないが、お客様にとって出来て当然だったか、大切な思い出を無視された気分だったか、苦情とは穏やかでない。

 その後40代になっても永遠のスタンダードに変わりなかった。

 

共演者もお客様も同世代か先輩ばかりで年を重ね50代後半、新規ライブレストラン出演で突然若手演奏家や歌手との交流が始まった。
親子ほどの年齢差でもスタンダードジャズの話はツーカーだったが、往年ポピュラーの「これを知らないと」の常識はもはや通じず、「慕情」も知らないことは浦島太郎の気分だった。
なのに「ムーンリバー」「L.O,V,E」「いそしぎ」「フライミートゥザームーン」「シェルブールの雨傘」などはスタンダードとして取り上げている。
はて、あれほどの「慕情」が知られなくなったのは何だろうと今も思う。

f:id:nemannekenarui1955:20210226050757j:plain