通ったところ

東京で暮らして30代そこそこの頃、演奏家先輩の知人がライブ店を開店すると出演依頼を受けた。

場所は四谷三丁目、自宅から新宿を越えて銀座まで15分の都心、オーナー夫妻は宝石商で当時40代末、学生時代を戦後ジャズブームで過ごしライブ店を持つのが夢だった。

 

数人のピアニストが日替わりでソロ出演したが、ある日オーナーが私に「昼間店を開けておくのはもったいないからレッスンやらないか、生徒はこちらで集める」とお話しを頂き店に通うようになる。

30代後半、活動していたジャズコーラスグループが解散、弾き語りが出来ないかと思い始めるが住環境で自宅練習が出来ず、レッスンの合間に店で練習。

コーラスと勝手が違ってなかなかで、「ピアニストだからかくし芸として受ければ」程度の意識だった。

 

45歳、クラリネット奏者北村英治さんとの共演が開始、本番ステージで「コーラスやってたから何か歌ってみないか」と、いきなり、その後も「今日は何歌う?」、このままではいかん!と四谷三丁目に足繁く練習に、銀座での仕事も多く一時期定期券を買ったほど。

 

オーナー夫妻もマスターも80歳越えて昨年末長い歴史に幕、東京で最も多く通ったところだった。