8ビート禁止令

あれは確か’80年代後半、昭和の終わる頃だった。
当時よく出演させて頂いていた銀座のライブ店、オーナーは「4ビートのスタンダードジャズ」を愛してやまない人だった。
元々ジャズライブの店だが、ある時期から多くの接客女性スタッフを置くようになり、レギュラーの女性歌手も3~4人いた。

女性歌手はお客のリクエストで、ビリー・ジョエルカーペンターズなどの「8ビートのポップス」にも応えていたのはごく自然なことであった。
しかし、これが気に入らないオーナーは4ビートジャズ愛からか、『8ビート禁止令』なるものを布告した。
ピアノの譜面台脇に張った紙に、『8ビートを演奏した場合、1曲につき○○○○円、ギャラから差し引きます』と書いてあった。歌手ばかりでなく演奏者も共犯という訳である。

出演メンバーは店のブッキングで毎回様々な共演者だったが、ある日ゲスト歌手が水森亜土さんだった。
毎ステージのラストはおきまりの「ブルースメドレー~ひみつのアッコちゃん」で、4ビートのブルースから、アッコちゃんで思いっきり8ビートになる。
これを都合3回のステージでやったラスト、ドラマーが「あー!今日のギャラなーし!」と叫んだ。
はたしてその日の終演後・・・、一応ギャラはちゃんと頂けた。
懐かしき昭和の想い出である。