ジャズの道しるべ

クラシックピアノを習っていた私が小学生の頃、「エレキブーム」というのがあって、ベンチャーズビートルズなどの流行音楽に夢中になった。
小学校高学年になった頃、既に高校生だった兄の同級生Sさんが、よく家に遊びに来た。ギターが弾けて洋楽の知識も豊富なSさんの影響で、我家にも洋モノのレコードが増えていった。

Sさんは東京の大学に進学しジャズ研でテナーサックスを吹くようになると、私にとって洋楽通として特別な存在になっていた。
小学校卒業の春休み(1967年かな?)、帰省中のSさんが「中学進級祝いに」と連れていってくれたのが、ジャズピアニストのマル・ウオルドロン・コンサートだった。
地元の福井ジャズクラブの招聘で、トリオのベーシストとドラマーは日本人で誰かは記憶ないが、福井市県民会館ホールは後方まで席が埋まっていた。

生まれて初めて聞くジャズは、1曲が長く感じたこととマル氏が演奏中ずっとタバコを吸っていたことが印象的だった。
それでも、何かブルースっぽいカッコよさを感じて、半年ほど後に親に頼んでレコード「レフトアローン」を買ってもらった。
 
その後はジャズに特別な興味は湧かず、ギターを覚えてロック少年となっていたが、ある日、家のレコードの中に「マイルスデビスの芸術」という“ソノシート”を見つけた。

ソノシート」は薄手のペラっとしたレコード盤で、写真や解説のある小冊子に2~3枚のソノシートがセットになったものが販売されていた。

後になって兄に聞くと、Sさんの勧めでこの「マイルス」を買ったがちょっと聴いて興味がわかず放置したそうだ。それを中学生の私が「これ何だろう?」とプレーヤーでかけてみた。
 
‘50年代のマイルスが4曲ほど収録、中でも「恋した時に」”When I fall in love”のバラードが気に入った。
レッド・ガーランドのピアノイントロからマイルスのミュートソロ、聴いているとボーっと良い気分になった。ちょっとした大人体験のような心地よい瞬間だった。