昭和のお客様

昭和時代のジャズ演奏家同士は会話に業界用語を多用した。

「シーメ」めし、食事、「ラーギャ」ギャラ、「ネーカ」お金、「ゴトシ」仕事、など、これらは例えば仕事内容の良し悪しなど、お客様に聞かせるべきでない内輪話に便利なだった。
 
これらの言葉を、足しげくライブに通うご常連にも使う方がいらした。
 
例えば、夜でも我々仲間内でその日最初のあいさつは「おはようございます」が慣例だが、ご常連の中にはこちらが「今晩は」と言うと、「おはようございます」と返す方がいらした。
 
ホテルやキャバレーなど1店舗のレギュラーとして一定期間連日出演する仕事を「ハコ」、地方などへ出向く仕事を「ビータ」(旅の逆さ)と言った。
 
ある知人は大学時代ジャズ研でドラムを演奏、銀行に就職されていたが勤務先を「ハコ」、出張を「ビータ」(旅の逆さ言葉)と言ってた。

「毎日のハコは疲れますけど、来週ビータなんで名物のシーメ(飯)が楽しみです」
などと。
当時若手だった我々と、逆さ言葉を交えた会話が随分と楽しそうだった。
 
皆さん私よりも上の世代であり、ジャズが大衆的に流行していた戦後~1950年代に青春時代を過ごされて、夢と憧れがあったのだろう。
 
音楽への夢と憧れは時代を経ても変わらぬことだが、現在、私より10年ほど若いジャズ演奏家は逆さ言葉など使わず、お客様も当然のこと。