言葉15-掛け声
私は30歳になっていたか、水森亜土さんは40代半ば、初共演が金沢のホテルディナーショーだった。
ステージでのリハーサル後に打ち合わせで亜土さんの部屋に呼ばれた。
あれこれダメ出し覚悟でドアをノック、「どうぞ」と部屋に入るとテーブルの上に色紙があってサインを書いている途中だった。
私がソファに座ると残りの色紙にさらさらとイラストとサインを書きながら、ショー全体のポイントのみ打ち合わせ。
色紙を書き終えて雑談、以前から友人のような話し方で思わず「え、何で?」とタメ口になる不思議な人懐っこさがあった。
金沢から戻って以後もジャズクラブ「サイセリヤ」には亜土さんも私も毎月出演していたが、別の日でお会いすることはなかった。
何か月か過ぎたある日、お店ブッキング担当Sさんが「高浜君に『ロミ&ジョーカーズ』以外でもピアニストとしても出てもらうよ。いろんな人と共演すると勉強になるから」、ありがたい言葉だった。
ブッキングはお任せで共演者の連絡はいちいち来ないが、音楽経験を積む意味で良かった。
通常ドラムとベースは楽器のセッティングで開演時間の1時間以上前に入店するが、ピアノは30分前、歌手は更に遅くバンド演奏が始まって入店し衣装替えする人もいた。
この日もそうで、歌手と会わぬままに開演時間でトリオ演奏をスタートした。
古手のスイング曲ばかりを演奏する私の背後が厚手の幕、その裏の楽屋から「イエー!」とか「ヒューヒュー、すてきー!」の掛け声、亜土さんだった。