「本読み」とは文字通り台本を読むことだが、最初から俳優さんは生き生きとした芝居のセリフ、<聞いてないよ!>だった。
まるでフォーマルな式典に普段着で参列した心境で、自分のセリフに近づくと<来るぞ来るぞ>緊張急上昇。
役柄は広島の原爆で両親を亡くし上京したピアニスト、バンドの冗談めかした会話で突然マジに「親が死んだのは本当だ」、素人には荷が重すぎるが今更後戻りできない。
「立ち稽古」に入ると、広いスタジオ床にテープで舞台の範囲が示され、ソファーやテーブルの小道具が置かれ、大道具のサイズを木の棒を組んだ枠で示してある。
体も動かし未知の戸惑いばかりで1週間余り、「明日は高浜さんと竹花さんは出番のないところだからお休みください」と予期せぬ休日。
朝起きたら体がだるい、熱を測ったら38度、風邪の症状もなく解熱剤飲んで一日寝て回復。
何だか情けないと翌日稽古場に行くと、なんと竹花くんも寝込んだと聞いて少し気が楽に。
尾藤イサオさんは歌手であり俳優として長く活躍されているが、私に「ロカビリー出身ですけどジャズも好きなんです」、とても謙虚で丁寧に接してくれた。
ある日、プロデューサー氏「スポンサーが稽古風景を収録してCMに使う案があるから、明日の稽古後に全員残ってくれ」、ところが翌日キャンセルになった。
実は、尾藤さんが「皆さんプロ、ついでのギャラなしは如何か」と進言して中止となったと後で知った。
出演者中最もキャリアのある方だが自己主張や注文など口にせず黙々と稽古に励む、しかし陰で後輩を守る、深い敬意を抱いた。