スタンダードジャズにはヴァース(Verse)があってコーラス(Chorus)という形式が多い。
ヴァースとコーラスは文章で言えば序章と本題で、ミュージカルなどで台詞にメロディーがついて語り風に歌い出すのがヴァース、リズムと共に歌い出すのがコーラス、しかしヴァースは省略されることも多い。
子供の頃から洋楽ポピュラーのレコードは多い家庭だったが、ヴァースから知っている曲は少なかった。
初めてプロとしての仕事を頂いた時、紹介してくれた先輩ピアニストが「あのリーダーは『スターダスト』を必ずヴァースからやるよ」と、知らなかったのでその場でメモ用紙にコード進行だけ書いてもらった。
このバンドは譜面もあったが、プロとして覚えていて当然の有名曲はリーダーがタイトルだけ告げて演奏した。
「枯葉」もリーダがいきなりクラリネットでヴァースを吹き始めて、うろ覚えの私は冷や汗もんでテキトーなことを弾いた記憶がある。
「慕情」「いそしぎ」などコーラスから始まるのが普通の曲も多いが、中には省略したヴァースによって内容がより理解できる曲もある。
「夕陽に赤い帆」"Red sails in the sunset"もコーラスから歌うことが多く「夕陽に赤い帆、明日結婚する人が沖に、風よ無事に岸まで戻しておくれ」という歌詞。
私は、婚約者が活発な女性で気弱な男性が岸でおろおろ、こらぁ結婚後も嫁にほんろうされるだろうという妄想まで抱いたが、ある時、ヴァース「沖に黒い雲が見える」を知って、あ、それじゃぁ心配だ、結婚後もお幸せにとの祝福に変わった。