芸事9-虹の彼方に

昨日書いた作曲家ジョン・ケージの「4分33秒」は演奏者が何もせず周囲に聴こえる音が作品だった。

 

1980年代に活動したコーラスグループ「ロミ&ジョーカーズ」は、バブルに向かう好景気でイベント仕事も多く、豪華一流ホテルから街のイベントまで様々。

東京下町の駅前通りに新しいビルがオープンした記念イベントで、隣接するスーパーとの間にあるアーケードの特設ステージでの演奏だった。

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「君微笑めば」「サニーサイド」などノリの良い曲を選んで、多くの人が足を止めて聴いてくれるので、リードヴォーカルのロミさんがバラード”Over The Rainbow”「虹の彼方に」を歌い出した。

すぐ近くの表通りは車が往来していたが、「ブ、ブ」とクラクションの音、電気ピアノを弾きながら見るとバスが路上駐車の車で立ち往生。

お客様は熱心に聴いて、歌のサビの辺りでバスが「ブー、ブー」と前より長めに。

歌のワンコーラス後半、もう少しで歌いきるところで、「ブーーー、ブーーーーー」クラクション鳴らしっぱなしに。

ピアノ前に立つロミさんの後ろ姿、肩が小刻みに震えている。

泣いているのか、もうここまでと私「終わり!」と告げてワンコーラスで曲を終えた。

ロミさんお客に背を向けてこちらを向くと、その顔が・・・笑っていた。

 

バスは動き、景気の良い曲でステージ終えるとロミさん、「あー、あんまりバカバカしくて笑いこらえるの辛かったぁー」と。

 

「虹の彼方に」を袈裟懸けに斬り倒すバスのロングクラクション、これぞジョン・ケージ的前衛芸術体験、なんてことは全く思えなかった。