映画と音楽139-ナツメロ

中国映画「芙蓉鎮」(ふようちん:1987)は小さな村を舞台に文化大革命の前後を生きた夫婦の物語。
少年期に聞いたラジオの北京放送(日本語)は文革の躍進を伝え、紹介される音楽は思想的、革命的主題ばかりでラブソングなどなかった。
台湾のテレサ・テンも録音した中国の古い歌「路辺的野花不要采」、〽村外れまであなたを見送る、どうか野の花を摘まないで、つまり浮気しないでの歌詞だが、中国では花が咲き鳥が鳴く歌詞に替えられていたそうだ。
異国への興味だけで聞いたあの頃、流暢な日本語アナウンサーの声が今も耳に残り不思議な懐かしさを感じる。
後になって実態が思想弾圧など凄まじい社会混乱だったと知った。

 

90年代末の中国音楽共演がきっかけで文化講座などに参加するようになると、文革世代の中国人に話を聞きたいと思った。

混乱の過去を質問することにためらいもあったが、思い切って聞いてみると意外と皆さん快く応じてくれた。
「決して肯定できる時代ではないが、あれもひとつの通過点だった」
ご高齢の演奏家は「私はどんな時代でも自ら喜びを見出そうと、体制の中で許される表現に自己の音楽を投影した」

 

ライブにいらした中国出身の女性、お父様が私と同世代で趣味がカラオケだと言うのでどんな歌を歌うのか聞くと「文革時代の歌をよく歌ってます」。
やはりそこか、思想云々に関わらずその国でその時代に生きた人のナツメロなのだろう。