台本8-幕が降りる

舞台は昭和24年の話で、ピアノを弾くシーンに選んだのは"To Each His Own"、終戦直後のヒット曲で雰囲気に合った。
舞台上のテーブルに置かれた小道具に当時の米国雑誌「ライフ」や「ソングフォリオ」があった。
「ソングフォリオ」は進駐米軍が持って来た譜面で1曲単位、ヒット曲の歌詞とメロディーにピアノ伴奏が印刷されており、因みに譜面は"Dream A Little Dream Of Me"。
値段が10セントで、先輩演奏家は「じゅっせんパート」或いは「テンセン(ト)パート」と呼び、多数所蔵されていたトロンボーン奏者河辺浩市さんとライブで演奏したことがある。
どこから探して来たのか、客席から見えない物にもこだわる製作スタッフのプロ意識。

 

私にとって嬉しいアイテムがたくさん詰まったこの舞台も、大阪の後に名古屋3日間、東京に戻って中野サンプラザで千秋楽。
役者初体験の戸惑いながらも、共演俳優とスタッフに温かい支えでなんとか終えることが出来た。しかし、本業の演奏家として貢献できたか不安はあった。
打ち上げで、プロデューサーIさん「あなたに頼んで正解だった」の一言にやっと重い荷を降ろす気分になれた。

 

この半年間で多くのことを学んだ。
演出家の厳しいダメ出から連帯感が生まれ、本番も日々気の抜けない緊張、全員で作り上げて幕が開いた達成感の大きさ、登山(趣味はなく想像だが)、或いは大型船の航海に似たように感じる。
それに比べたら演奏稼業は平原を行く旅人で、それぞれ困難も感動の風景もあるが、私にはジャズピアニストが何よりも性に合っていることがよく分かった。